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神楽坂のタワー・マンション「メゾン・リベルテ」を舞台に描かれる10の物語。
そのどれもが「自由」や「愛」などのありふれた言葉に疑問を投げかけるかのような内容になっている。

『空を分ける』
ルームシェアをしている梨花と博人。異性とシェアをするならとんでもなく好みの人か、どうでもいい人がいいなんてからかわれたりした。梨花の場合は、前者だった。博人には恋人がおり、お互い家に友人を呼ばないルールを決めていたので波風も立たないまま生活をしている。が、博人はある日恋人と別れて帰ってきた。

恋人でない男性と共に暮らすのは私も憧れたが、今考えると世の中には向き不向きがあるので諦めた。例えどんな好みじゃない男性だとしてもそういう目でみないという保証が自分にできなかったからである。
その点梨花は、初めから博人を異性だとして見ているのに、大げさなアピールなどは何一つしない。この二人の日常はこの後どう変化するのだろうか、いや、変化しないのかもしれない、と思いながら、それは残酷だな、と笑った。

『魔法の寝室』
麻耶と真治は子供がまだいない夫婦である。引っ越してきて一ヶ月半。新しいマンションにもそろそろ慣れてきた。麻耶は人から無感動だと思われるほど冷静で、ベッドでも激しい快感に身悶えたことはない。こんなものだ、と諦観がある。が、寝室の壁紙を張り替えると、その日のベッドではめくるめく快感が襲ってきた。

なにがきっかけで人間が変わるかわからない。それは壁紙を張り替えると言う全く関係ない出来事だとしても。初めての性の目覚めでこの夫妻は今後きっとうまくいく、と確信するラストだった。

『いばらの城』
母親に支配されていた過去を持つ美広。恋人の茂人とはうまくやっている。が、結婚は考えていない。三十路を越え、マンションが欲しいと突然思い立った。自分の鎧が欲しくなったのだ。様々なマンションを茂人に付き合ってもらって内見するが、決めたのは「メゾン・リベルテ」だった。

なんと言ってもラストの茂人のセリフがいい。美広をきちんと対等なパートナーとして認めているからこその発言で、それを受け入れられない自分を”自分で”受け入れる美広も大人の女性でかっこいい。

『ホームシアター』
黒崎家は三人家族。志郎と真奈美、そして息子の優樹で暮らしている。息子は17歳の時に高校を中退し、ネットをして仕事もせずに生活している。新聞で取り上げられた「ニート」の文字に、真奈美は「うちの子のことじゃない」と言う。志郎と優樹は映画という共通の趣味があり、ホームシアターを作ろうと話していた。その話をしている最中に、優樹は自分の置かれている現状について話し始める。

私も5年半ニートをやっていたのでわかるのだが、社会に疎外されたと感じると、外に出て行くことは難しい。外出も買い物もできるが、働くという自分が想像するだけで恐ろしい。でもそれはぼんやりとした不安で、具体的な恐怖ではない。志郎のような父親は、この先苦労するだろうけれど一緒にいて楽しい親なのだろう。

『落ち葉焚き』
静子は未亡人だ。立ち退きを要求されて今はマンションに一人で暮らしている。未亡人の会で知り合った雄介に告白され、穏やかに付き合いを続ける。が、そこに赤ちゃん連れの女性が訪ねてきて……。

なぜ若い人たちは当然の権利として恋をしているのに、年齢を重ねると受け入れ難くなるのか。誰かと寄り添って生きるというのは非常に心を豊かにしてくれることだと思う。私は老人でもバンバン恋をするべきだと思うし、それを受け入れられる社会になればいいと思っている。

『本のある部屋』
尚美は洋介という四十路の男の愛人をしている。マンションをあてがわれ、金銭を受け取っている。が、尚美本人に愛人である、という確証が持てないでいる。なぜなら洋介とは肉体関係がないからだ。その部屋に洋介が訪れて何をしているかというと、尚美の朗読する声をじっと黙って聞いているのだった。そこにきつい顔立ちの女性が訪ねてくる。

こういう愛人関係もあるのか、と思ってしまったが、いや、ないよな……。世の中にはすごい癒され方を求める人間もいるんだなあ、と思ったのと、尚美がどこか可哀想で読んでいてつらかった。

『夢のなかの男』
純子は結婚しているが子供はいない。その日も悪友の真由美に頼んでアリバイ作りに協力してもらい、化粧をして出かけた。彼女は男に抱かれに行くのだ。それも、決まった男ではない。ネットで知り合った男性だ。彼らは細身でメガネが似合い、スーツを着せたくなるような男性。純子はもともと性欲が強い方で、初めての不倫をきっかけに目覚めてしまっていた。そしてある日夢の中でメガネをかけた男に会う。

スーツメガネ男子っていいよなあ……。私も大好きだ。そしてこの話のポイントは性に奔放な純子が本当は真実の愛を求めている、と無意識に気づくことだろう。そしてそれを誤魔化して生きている日常を今後も続けるのだ。夫にバレない限り。

『十七ヶ月』
真紀には17ヶ月になる子供、充がいる。翻訳の仕事をしながら夫の帰りを待ち、充が火のついたように泣くのをあやす日々が続く。不妊治療の結果ようやくできた子供で、夫婦二人で「3人は欲しい」と言っていたものの、実際の赤ちゃんのパワーはすごいものがあった。真紀のたったひとつの冒険は、ベビーカーに乗せた充からほんの数メートル離れて公園を歩くことだった。

日常の疲労から回復するのに、難しいことは何もいらない。例えばそれは友達とのおしゃべりだったり、夫から抱きしめられることだったり。それがたまたま「赤ん坊から数メートル離れる」という行動だっただけだ。そしてその些細な行動は、大きな勇気を生み出す。

『指の楽園』
内装の仕事をしているうららは、毎週マッサージを受けに行っている。そこには渉というまだ二十代の男の子がいて、いつもうららの硬くなってしまった体を指で、心を会話でほぐしてくれる。ある日とんでもないお客にあたって愚痴をこぼしていると、渉が草加のラブホテルが素晴らしい内装だったという話を始める。「うららさんも行ってみませんか? 絶対仕事の役に立つと思う」。本気の誘いでないと知っていながら、うららはときめいてしまう。

いやー、うららがかっこいい! 若い子に口説かれた時に、こんなセリフが言える大人になりたい。心地よい関係はいつまでも続かない、ということをわかっているからこそのセリフだ。

『愛がいない部屋』
愛子は夫と8歳になる娘とマンションに住んでいる。が、そこにはもう、世間一般に言われる愛はない。一階のカフェで時間を潰していると、おしゃれな老婦人を見かける。次の日もその老婦人はやってきて、愛子に声をかける。愛子はサングラスで隠していたが、左目に青あざがあった。老婦人は咲と名乗り、彼女を三十二階の部屋へ招く。「全て吐き出しなさい。吐き出さないと何も始まらない」。

この人には私がいないとだめなの、という女も多いが、ここでの愛子は夫の暴力に疲れた無力感に苛まされる一介の主婦だ。仕事もブランクがあり、娘には「ママ、頑張ってね」と励まされる。自分にはもうなにもできない。本当にそうなのか? その疑問が咲の登場で変わり、諦観が希望に変わる瞬間を見事に描いている。
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