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左近桜蔵、16歳。連れ込み宿の息子で、あやかしに好かれる体質。父親の柾などは、「それはお前がどうしようもなく”女”だからだ」という。生物学上も物理学上も男なのに。
そんな青年を主人公に書かれた12編の小説は、まるで歳時記のようにめくるめく美しくあやしい世界だ。

『花も嵐も春のうち』
武蔵野の駅近く、ひっそりとその宿はある。男同士の連れ込み宿「左近」。桜蔵は駅へ客人を迎えに行くが、その客人は「一番風呂はいやだ」と言う。
元は長野のファンクラブ会報に書かれていたという作品。この話だけで完結してもいいようなうっとりとする世界だ。

『天神さまの云うとおり』
早朝ランニングに出た桜蔵は、男を拾う。酔っ払って正体を無くしている間に現金や荷物は盗られてしまったという。男を置いて自宅へ帰ると、遠くの方から煙が上がっているのが見えた。
羽ノ浦との出会いの章だ。弟の千菊も登場。

『六月一日晴』
突然「左近」を訪れた男に、桜蔵は蝶を映されてしまう。そしてその蝶を羽ノ浦に撮影されーー。
艶かしくエロティックな役割に蝶をもってくるとは、わかってる! という感じ。1頭、2頭という数え方もどことなく隠微。

『骨箱』
修学旅行の資金を用立ててもらおうと柾にいうと、「骨箱」と書かれたとっくりを渡される。地図のところに行けばそれを金に変えてくれるという。
桜蔵の肌の引力はよほどのものがあるのだろう。

『瓜喰めば』
柾と千菊の三人でバンガローへ出かけた先、留守番をしていた桜蔵のところへスイカ売りが現れる。
スイカといえば確かに海を連想させる。死人の未練はなかなかに解消されない。

『雲母蟲』
生物準備室の前を通りかかると、「開けてくれ」という声がする。渋々ながら開けてやると、桜蔵は閉じ込められてしまう。そして桜蔵の体はさっきまでいたなにかに乗っ取られてしまいーー。
羽ノ浦の二度目の豹変が見れる。どんな写真を撮られたのかと想像するだけでエロティックだ。

『秋草の譜』
修学旅行先で民泊することになった桜蔵は、その主人は寝込んでいて息子と名乗る男に仕事を手伝わされる。
そういえば昔の高級な半紙は押し花みたいになっていたよなあ、などと回想した。

『空舟』
突然訪ねてきた客だと名乗る男は、桜蔵が昔祖母の通夜の時にみた”鵺”だった。
完全にあやかしものの一編となっており、これだけで話が膨らませられそうである。

『一夜半』
「左近」の常連、浜尾に連れられてとある場所へきた桜蔵は、浜尾に「未亡人の息子になりすまして印鑑を手に入れてきてほしい」と頼まれる。未亡人は息子が20年前に亡くなっていることをすっかり忘れているのだという。
最後の最後まで展開がどう転ぶかわからないところが面白い。

『件の男』
柾の診療所の玄関口に立っている男を介抱しようとしたら、その男は手帖を残して消えてしまった。その手帖には未来の事柄まで書いてあった。
今度は桜蔵が意識だけあり体が変容する話。ココアがとても美味しそうだ。

『うかれ猫』
柾の正妻に連れられてでかけた先で、自転車で転んだので修理できるところまで乗せて行ってほしい、と行きずりの男に頼まれる。夫人は「おいしいりんごを食べさせてあげる」と同乗を許した。
確かに最中は猫に見えるかもなあ、などと卑猥な妄想をしてしまった。

『海市』
柾と出かけた先で、列車が止まってしまう。ぶらりと下車した先の旧家で柾はお産を手伝ってくるという。後からきた桜蔵がその家へあがると、弥という名の男性が案内してくれた。
ハマグリは蜃気楼を吐く、という故事に基づいた一編なのだが、めくるめく幻想の世界だ。
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