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以前単行本を読んだ時の感想はこちら。http://kagenokemono.blog51.fc2.com/blog-entry-579.html

文庫と単行本で何が違うかと行ったら、受ける印象が全然違う。多くの漢字がひらがなやカタカナに開かれていて、単行本の時は「美しい日本語」というイメージの小説だったのが、文庫では「優しい日本語」というイメージを抱く。
長野の作品には珍しく、この連作小説には恋愛の要素が一切ない。あるのは長い時代を経て受け継がれてきた箪笥の持っている雄大さと、それを取り巻く家族の暖かさ、そしてちょっと奇妙な訪問者達のざわめきだけだ。
謎は謎のままに残しているこの書き方はとても私の好みに合っていて、人物が匿名になっているのも想像が膨らんで好ましい。

『箪笥のなか』
小母の家に置いて合った古い箪笥を譲り受けた主人公。弟は「箪笥が重い。中に四、五人は入っている」という。弟は昔からこの界ならざるものを見たり聞いたりする性質であった。
これから始まる箪笥にまつわるエピソードにふさわしく、わくわくする書き出しだ。人物設定もうまく、主人公が見聞きする立場でないことがいい。

『鳩のパン』
弟が見た夢の中に、”鳩のパン”が出てくる。そのパンは幼い頃ふたりで遠出した際に、迷ってしまった先で食べたクリームパンを連想させた。
あたたかい話で、鳩のクリームパンを思わず目の前の空間に連想してしまう。ふかふかで香ばしい匂いが太陽と同じで、冷たい牛乳とよく合うことだろう。

『真珠採り』
弟の誕生石である真珠がこの話のモチーフ。アサリの酒蒸しから突然大粒の真珠が零れ落ちてくる。弟は少年を玄関先で預けられて姉の家に一晩泊めることにした。少年の耳の中に虫がはいったかもしれない、と夜にあった出来事を話すと、届けた交番で少年は耳鼻科に行ったと伝えられる。
耳鳴りって波の音に聞こえることがあるんだよなあ、と自分の体験と重ねながら読んだ。この不思議な感覚は、波に揺られている時に近いのかもしれない。文章の中を揺蕩っているイメージだ。

『岸辺』
海の岸辺には色々なものが流れ着く。それをつりあげて瓶に詰めて、道楽者に売る。そんな商売があった記憶がある。
確かに命の元であり水の流れ着く先の海には色々なものが集まりそうだなあ、と。

『箱屋』
バスの中で聞いたよその人の会話。そこに登場する鳥。そんな鳥を愛して止まず、酒と鳥道楽に人生をほぼ費やしたと言っても良い箪笥職人こと”箱屋”がタイトルになっている。引き出しが完全に閉じなくなって箱屋を尋ねるが、そこには本人の姿はなく、若いお弟子さんがいる。すれ違いの末箱屋には会えるのだが、箱屋は「弟子はいない」と言い張りーー。
ここまでの作品で登場する妖の気配を感じる怪異ではなく、最後にきちんと現実的なオチがあるのが良い。

『蛇の目』
箪笥の前に何かのウロコが落ちているのを発見する主人公は、箪笥が前にあった小母の家に泊まった時のことを思い出す。弟が「中に蛇がいるよ」と言い、そのすぐ後に箪笥の鍵穴に指がはまってしまって抜けなくなってしまった騒動の日の思い出だ。
蛇が好きな義妹というのもすごいが、弟の息子であるハトが、すでにいっぱしの大人と同じ存在感で話に登場しているのが好ましい。

『琥珀』
デパートに出かけた際に、黒いワンピースを着た女の人のネックレスがはじけたところを、幼い頃の姉弟は目撃する。拾い集めたそれを女の人は一粒くれた。「琥珀は魂を呼ぶ」と言って。
箱屋も大家も出演し、箪笥のおかげか妙な人の寄り合い所みたいになっている主人公の家。弟も変なら義妹も変だ。それを受け入れてる主人公が実は一番変なのだが、この姉にはもともとそういうものを受け入れる素地があるのだな、と深く納得。

『雪鳥』
鳥には少し思い入れのある主人公が、繭玉のついた(偽物だが)もち花を購入する。母は弟の持って着たもち花に繭玉がたくさんくっついてるのをみて、「そんなにたくさん神様をつれてきて」と困りながらもお汁粉を作って備える。庭に埋めた鳥たちの魂は、どう天に昇っていったのかを思い出そうとするがうまくいかない。
今時綿を大量に買ってくる人間なんてよっぽどの信心深い人かお年寄りぐらいしかいないだろうけど、長野の書く作品の中ではその行動が尤もらしく見えるから不思議だ。

『くちなし』
イラストの仕事で碁盤を描く必要性に思い当たった主人公は、箱屋の非常にものがいいという碁盤を借りる。そうこうしているうちに、家に女性が訪ねてくる。大家が相手をしてくれるが、どうもその女性は正気ではないようでーー。
伏線がきちんと回収されていく面白さがこの作品にはあり、短いながらもこの連作の中では出来がダントツにいい。残り香が強いということは想いが強いということなのかもしれない。

『貝びな』
昔祖父と一緒に作った貝の雛人形を未だに持っている主人公。弟はハトと訪れた後、ゴミ捨て場で立派な女雛を見つけ、「箪笥の嫁に」と持ち帰る。
話の大筋の内容よりも、途中で出てくるちらし寿司が美味しそうでよだれが…。私も弟と同じく貝には目がない方なので、しじみのしぐれ煮入りの混ぜご飯を食べたくなった。

『花ふる』
両親と弟一家と自分とで花見に行くことになった主人公。ホイッスルを振り回すハトを見ながら、弟が幼かった頃のことを思い出す。その弟は、花見の先で見知らぬ老婆を拾ってしまっていた。
花が待っている様子といえば、遠山の金さん。なんて連想をしてしまうような話の持っていき方なのだが、花びらがガラスに見えるという老婆が痛ましく、その光景が目に浮かんで美しさとないまぜになりため息が漏れる。
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