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五年前のドイツ映画である。監督はアドルフ・ブルガー。
奇しくもあの、ヒトラーと同じ名を持つものがメガホンを撮った。

この作品には二人のヒーローが出てくる。贋札作りの達人であるユダヤ人、サロモン(以下サリーと呼ぶ)、もう一人は収容所の中で己の正義を貫くブルガーだ。

パリの高級ホテルのカジノから、この映画は始まる。大量のドル札を持った、金遣いの荒い男、サリー。情事の後に出会った女にすら金を渡す。左腕にはアウシュビッツの入れ墨。彼はこのカジノで、ギャンブル以外にある目的があった。

舞台は1936年ドイツ。
贋札作りで名を馳せ、身分証やパスの偽造をその筋からよく頼まれる、「詐欺師」のサリー。一晩ねぐらを変えるのが遅かった為に、SSに捕まり収容所へ入れられる。
収容所で無抵抗の人間が理不尽に殺されていく現実を目の当たりにし、サリーは強制労働のあと、みんなが寝静まった中、血豆が潰れた手で”こっそり”とナチ軍人のイラストを描き上げる。それを見つけた軍人が「上手いじゃないか」とほめると、「色が付けられればもっと絵が美しくなります。靴の艶だって・・・」と”おずおず”と訴え、その軍人の肖像画を描く事となる。ただしサリーの視線は机の上の食べかけの林檎である。肖像画を頼んだ軍人が上官に「何をしている」ととがめられた瞬間に、林檎はサリーの口の中。更に上官に絵の才能を認められて、看板を描く労働、つまり重労働から逃れて彼の得意な労働へとシフトさせていくシーンはすごい。
そこから移送され、ザウネンヘルツへと集った囚人たち。アウシュビッツ収容所の人間が着ていたメモのついた服を渡され、とある作戦に参加するように言われるのである。
「ベルンハルト作戦」の名の下に、国を挙げての大掛かりな贋札作りを行うのだ。そこに贋札の専門家として、サリーは受け入れられる。収容所とは名ばかりの研究所には、印刷工、板金工など、様々な専門分野の囚人たちがいた。
ふかふかのベッドが与えられ、ここが本当に収容所なのかと驚く囚人たち。しかし別棟で行われている「試し履き」と呼ばれる刑罰の行進の足音は確かに聴こえており、それはより一層恐怖を駆り立てた。作戦に参加している人間だけが別世界にいるかのようである。
シャワーも週に一度、日曜日に行われる。移送中に仲良くなった美術を専攻していた青年コーニャは、「僕は知っている!ここはガス室なんだ!」と騒いだ後に、普通に水が降ってくる奇跡に感謝する。

「ベルンハルト作戦」とは、敵の経済に打撃と混乱を与える為にナチスが行った贋札作戦であり、そのほとんどは秘密裏に行われた。この作戦がうまくいけば、ドイツは負けていなかったかもしれない。

ポンド札を作る為に悩むメンバーたちだが、紙だけがどうしても本物と手触りが違う。その悩みに、ふと手を拭いた布でサリーはひらめく。「使い古しの麻だ!トルコ産の麻を中に入れるんだ!」
こうして紙は出来、印刷も終わり、「イギリス人は札を財布に入れずにピンで止めます」とディティールにもこだわった完璧なポンドが出来る。ブルガーに睨まれながらも、サリーは「今日犬死にするより、明日ガス室に入る方を選ぶ」と吐き捨てる。
こうして苦労して作った贋札を、ナチスの人間がポンド建ての口座を作る為に銀行へ持っていった。そこで真贋を問われるが、検査はオールクリア。更に「確証が欲しい」と、中央銀行のお墨付きまでもらう。ここではそれが命の保証書となったのだ。褒美としてメンバーには卓球台が贈られた。
次はドル。しかしドルのネガ作成が思うように進まない。そうなるのには原因があった。反体制のビラを収容所に入る前には作っていたブルガー。彼がネガに傷を付けていたのである。「何度やってもネガに傷をつけるぞ」とブルガーはいう。ドルを偽造しない事でナチス(体制)と闘えるが、サリーはそれをしたくない。ブルガーのサボタージュに他の仲間も我慢の限界にくるが、「ブルガーを売るな」とサリーは告げ、黙々と彼自身のやり方で贋札を作ろうとする。サリーはブルガーと争う事を好まなかったのだ。

沢山の同胞を救う為に、ドルを作らないというブルガー。目の前の同胞を救う為に、ドルを作ろうとするサリー。二つの意思がぶつかり続けるが、サリーはナチスにしょんべんをかけられても何も言わなかった。
ブルガーとサリーの心理戦がこのあたりから辛くなってくる。そんな中、両者にとって決定的な事項がひとつずつ起きる。まずはサリー。コーニャが結核を患ったのだ。別の収容所にいたドクターによれば、結核だと解った段階で感染を防ぐ為にその囚人は射殺されたという。コーニャもそうなるかもしれない。コーニャを隔離して、サリーはドルの完成を急ぐ。
ブルガーを失意のどん底に落としたのは、アウシュビッツからの手紙だった。「”ギゼラ”。妻の名だ。」「ドルの偽造は阻止し続ける。その間ここで安全に暮らせる。ベッドだってふかふかだ。」吐き捨てながらブルガーは部屋のベッドをなぎ倒す。彼の妻が処刑されたのだった。

コーニャの病状は悪化するばかりだったが、薬があれば助かる事を知ったサリーは、医師にその薬品名を書かせ、メモとして上着の襟元の穴へ隠しておく。もしものときの為の交渉手段にする為だ。そしてそれはすぐにきた。
少佐の家に模範的な囚人として呼ばれる事になったのだ。少佐の家族たちからの奇異なまなざしを存分に浴びた後、サリーは少佐と二人で酒をかわす。少佐の要望は単純な事だった。パスの偽造依頼だ。それを聞いた後、サリーは薬品名の書かれたメモを渡す。交換条件ということだ。

ドルの完成が期限までに終わらなかった。四人が処刑される事になる。そこでブルガーが仲間に売られそうになるのを、一人でドルを完成させて救ったサリー。この辺りのヒーローは間違いなくサリーだ。
しかしドルが完成した事により、収容所は解体となる。そしてカーニバルの後、コーニャは薬の甲斐無く射殺された。パスを渡したのに。ドルも作ったのに。
サリーの中に、怒りがわき上がる。これは同胞を殺された怒りだけではない。”これから殺される”自分たちに対しての弔いの怒りだ。

しかし、解体が完全に進む前に、戦争が終わった。
他の棟の囚人が乗り込んできた時に、全員がSSではないと信じてもらう為に、アウシュビッツの入れ墨をみせる。それほどまでにここは別世界だったのだ。
痩せ衰えた囚人が、この棟の布団を触るシーン。蓄音機で音楽を聴くシーン。あまりにも違いすぎて、誰もすぐには受け入れられない。そして一番違っていたのは、ブルガーが、ドルの印刷を阻止した”ヒーロー”として紹介された事だ。サリーは隅にひっそりと居た。ただひっそりと。怒りの炎を向ける相手を無くしてしまった状態で。

ここでようやく、最初のカジノシーンの意味がよく解った。サリーは呪われた過去に区切りを付けるため、贋札を全部使い切る為にここにやってきたのだ。
暗転、オケラになったサリーに、ホテルからシャンパンが贈られる。海岸でそれを一人でやっていると、情事をかわした女がグラスをもって近づいてくる。
捕まった夜と同じように、女とサリーはタンゴを踊り、終幕。
「もったいなかったわね、あんな大金」
「また作るさ」
光と影、そしてその逆転をはっきりと描いた素晴らしい作品だった。
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