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喪失と付き合うための物語が7つ収録されている。
春樹はただそこにある、という情景を描くのがうまいが、この短編集では「ただ、なくなった」という話が収まっている。

『レキシントンの幽霊』
小説家の”僕”が主人公で、春樹が実体験したかのように書かれている。当時アメリカに住んでいた”僕”は、ケイシーという男性から「一度会いたい」と手紙をもらう。彼の豊富なジャズ・レコードのコレクションに興味を持ち、その後親交を深める。そんな折ケイシーは仕事の都合で一週間家を離れることになり、留守番を”僕”は任される。

一発目からこの話だったので、もしや『回転木馬の〜』のように実体験をもとにした話ばかりが収録されているのかと思った。実際はそんなことはなく、小説に入り込むのに適した一作だった。

『緑色の獣』
”私”は主婦で、暇な時は庭の椎の木を眺めている。それを眺めていると時間はあっという間にすぎてしまう。しかしある日椎の木を眺めていると、根元から緑色の鼻の長い醜い獣が這い出してくる。その獣は彼女の心の中が読めるのだった。

どう終わらせるのかと思ったらなんとも……人間より怖いものはないな。

『沈黙』
”僕”と大沢さんは仕事の関係で空港のレストランでコーヒーを飲んでいる。大沢さんは人当たりも良く、誰からも好かれるタイプの人間だ。彼はボクシングを若い頃からやっていて、”僕”は興味があり一つ質問をする。「人を殴ったことはあるか?」大沢さんは時計を見ながら、その時のことを語り出した。

悪意というものは本当に恐ろしいものだと思う。人間の感情というものは不思議なもので、自分がやられたら絶対につらくていやだ、というようなことでも他人に対してなら平気で行える。この話は読んでいてつらかった。私もビールが飲みたい気分だ。

『氷男』
”私”はスキー場で氷男に出会う。人見知りで会話は得意ではないけれど、”私”と氷男は会話をし、惹かれあい、やがて結婚に至る。周囲には反対されて、二人だけの満足のいく生活は徐々に退屈なものになる。”私”は気分転換に旅行に行こう、と氷男を誘う。

これはもしかしたらとんでもない皮肉の文章なのかもしれない。”私”は結局のところ氷男の本質を理解した”つもり”で何も理解しておらず、勝手に「私だけひとりぼっちなんてヤダヤダ」と駄々をこねているだけにもみえる。そういう風に読めるように書いたのだとしたら、これは恋人というものに対するアンチテーゼなのかもしれない。

『トニー滝谷』
間違いなく日本人なのに、本名が「滝谷トニー」のため、混血児と間違われたり孤独な人生を歩んできた青年。いつのまにか彼にとって孤独とは至って普通のことであり、切り離せないものになる。そんな彼はイラストレーターとして活躍するようになるが、出版社の女性に一目惚れしてしまい、デートを重ねて結婚を申し込む。

筋だけ書けばちょっとした喜劇にもなりそうなのだが、あくまでこれは「孤独と闘う男」の話なのだと思う。孤独と寄り添い、その存在を受け入れたものの、孤独ではなくなり、さらに影の増した孤独に怯える。軽くホラーでもある。

『七番目の男』
七番目の男は、昔暮らしていたS県であった出来事を話す。彼にはKという弟分のような存在がいて、どこにいくにも一緒だった。Kは絵がうまかった。そんな二人が、台風の日に海岸で運命を分かつ出来事に遭遇してしまう。

最近では東日本大震災などもあり、津波の恐怖は皆の心の根底に存在していると思う。が、私はその時に実際に波も見ていないし、(停電していたためリアルタイムではみれなかった、見なくても良かった)のちに流れたニュースフィルムは恐ろしいだけで流れているのもつらかった。目の前でこのようなことが起きた場合、私は主人公のことを笑えないと思う。

『めくらやなぎと、眠る女』
”僕”といとこは病院に向かっている。いとこは以前事故でぶつかった右の耳が周期的に難聴になるので、病院を変えることになっていた。その診察に付き添って食堂でぼんやりしていると、以前別の病院に女性を見舞いに行ったことがしきりに思い出された。彼女はめくらやなぎが出てくる詩を書いていた。

どういう風に収束する話なんだろう、と思って読んでいたら、こういう風にまとめたか! という感じ。これを書いた頃が80年代らしいので、まだ病院の内部には灰皿があるし、裏手は夾竹桃が生えている。そういう細かな部分で若干の違和感はあるものの、”僕”の気持ちは当時と今とそんなに変わっていないんだろうな、と思う。
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むむむ、これは非常に難解な小説だな。
まず、春樹らしいと言える文体ではない。幾つもの世界が平行で進む。
マリの世界、エリの世界、白川の世界。
それらが収束する場所がホテル「アルファヴィル」なのだろう。
あらすじを書き出すのも困難なぐらいに、難解だ。
暴力やセックスや人間関係の象徴がホテル「アルファヴィル」に集約されていて、書き出しはマリの世界だけれど本来は「アルファヴィル」を起点に話を作っていたのだろう。
そう考えなければ登場人物の点と点が繋がらない。

浅井マリは深夜ファミレスでハードカバーの小説を読んでいた。
「君は浅井エリの妹じゃない?」
声をかけてきた男と少しの世間話をする。
彼の名前は高橋。
高橋がバンドの練習に向かってしばらくすると、カオルという大柄な女性がマリを訪ねてきた。
「あんた中国語が喋れるんだって? 助けてほしい」
中国人の娼婦がカオルのホテルで怪我をしているという。
通訳に行ったマリは、そこで同年代の娼婦と少しの会話をする。
あくまで、少し。
お互いの日常を侵食しない程度。
同時刻、浅井エリは深い眠りの最中、別のブラウン管を通した世界にベッドごと移送されていた。
深い眠りから目覚めた彼女は、見知らぬ部屋にいることを不思議に思う。

解釈や謎解きはいろいろあるだろうけど、私はこれをあくまで「マリとエリの物語」として読んだ。
心がぴたっと寄り添っていた時期から、もうそれができない時期へと移行してしまった姉妹の物語。
エリの眠りは完璧で、そこに寄り添おうとすることすら難しい。
それを高橋やカオルやコオロギと出会うことにより、心の形を少しずつマリは変えていき、姉の隙間に埋まるように変容させて最後のシーンにつなげるのだと思うのだ。
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青春三部作の最後の作品。主人公が社会の「一般論」を代表して存在しているのと同時に、モラトリアムに終止符を打つ話だと読んだ。

「僕」は鼠から手紙をもらう。消印はわからない。
その中に同封されていた羊の写真が、「僕」を羊をめぐる冒険へ誘う。
「僕」はそれまでに結婚と離婚を経験し、完璧な耳を持ったガールフレンドを手に入れていた。
冒険に彼女は同行し、預言者として「僕」の旅を助ける。
鼠は何を思って「僕」に写真を渡したのか。
羊とは一体なんなのか。

「ねじまき鳥〜」などにも登場する、異質な存在(ここでは羊男)が登場したり、世の中の悪を代表したような秘書の男が登場したり、主人公がうだうだしている間に冒険の手はずはどんどん整って周りの時間だけが過ぎていく感覚がすごい。
この小説の中で主人公が行うことはセックスと飲酒と喫煙で、あとは少々の移動と人の話を聞くことだけだ。
なのにきちんと「冒険」になっているところが面白い。
ラストは呆然としてしまいそうな結末で、「僕」と鼠の物語はこのようにしてピリオドを迎えたのかと切なさを覚える。



春樹が好きなライターに、おすすめの本を聞いたらこれを勧められた。
書かれている文章全てが新鮮で瑞々しくて、でもどこか客観的なラップでくるんだような感じが面白かった。文庫を買おうと思う。



この人のエッセイは、どうしてこんなに素敵なのだろう。
ニヤニヤしてしまったり、ビックリしたり。



乾いた、とか、淡々とした、とかさらりとしたなどの形容詞はこの人の書いた物を読めば自ずと理解できる。

数々の「話されたがっている」話をのせた短篇集。
絵画の話は素晴らしい偶然の話だった。



三部作って真ん中の作品は結構軽んじられる事が多いと思う。

人生はピンボールと同じだ。
当たりに入れば倍々ゲーム。

鼠とジェイの別れは本当切なかった。



これはいいよ。
村上春樹デビュー作。
いきなり「完璧な文章は存在しない」と切り捨ててる辺り、後の文章の不完全さに触れさせない力がある。

そう、兎に角不完全。
出てくる架空の作家も不完全だし、
その死に方もどこか滑稽で不完全だし、
もう一人の主要人物の小説も不完全。
隣に寝ていた女の子も不完全。

だけど、不完全な事こそが完璧の要因の一つだと思う。




高校時代に図書室になんとか頼み込んで入れてもらった本。非日常が日常の私にとって、このタバコの煙のような緩やかに残る文体と、サラリとした非日常が衝撃だった。癖のない書き口がこの人の個性のうちなのだなぁと痛感させられる本。
村上春樹は大好きなのだが、近年お遊びが多いなぁと思っていた処にこの作品だったので正直ヤラレタ感でいっぱい。読んでない人は是非。



夜行バスの中、トランクに詰めてた重いハードカバーを取り出す。それがこの「ねじまき鳥クロニクル」だった。
第二部が丸々書き下ろしだという話にも吃驚したのだが、何よりも衝撃を受けたのはその表現力とサラリとした読後感。平凡な比喩を多用する事によって読みやすく、そして稀にジョークか高度な例えなのかが解らなくなるちょっとした刺激。
話の内容だけで充分面白いのに、彼は主人公の思考を余す事無く書ききる。何も考えていないように読めるが、彼は彼なりの思考があるのだとも読み取れるなんともフシギな文体だった。
これ以来私は村上春樹作品の虜になった。この難解にして平凡な作品の数々を、貴方はどんな解読方法で読むのだろうか?全三部。
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