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インターネットの世界は狭くて広大だ。そして自由。
そこでは年齢も職業も性別も問われないし、小さな嘘をついてそれらすべてを詐称してしまうこともできる。
そんな「出来心」での嘘からできた人間関係に満足しているうちはいいけれど、そのやりとりをしている相手にどうしようもなく興味が出てしまったら……いや、興味だけならなんとか自分の気持ちを抑えらえるかもしれない。でもその人が「魂の双子」とも言うべき安心感と満足感を与えてくれる存在だとしたら?

千晶は海外の輸入ファッションブランドを何本か抱えているファッションマネージャー。毎日くたくたになりながら働いているその生活を支えているのは、SNSで知り合った「キリコ」という女性とのメッセージのやりとりだ。キリコは聡明で優しく、打てば響くかのような返信をしてくれる。ただひとつ引っかかるのは、自分が「アキヒト」という男性になりすましてメッセージのやりとりをしていることだった。
その相手のキリコは、アキヒトのことを親友のように思っていた。なんでも話せていつも励ましてくれる存在。そんな彼にキリコもひとつだけ負い目がある。それは自分が秀紀という男性だということーー。

千晶と秀紀だけの話ではなく、キリコとアキヒトも加え「4人」の恋愛小説になっているところがポイント。ぐいぐいと引き込まれてページをめくるのがとても楽しみだった。
男性には男性らしさを、女性には女性らしさを求める社会はもう終わったのかもしれないな、なんて。
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石田衣良初の恋愛短編集。この後に発行されたものを先に読んでいたのだが、なんとなくこの作品の方がみずみずしさが出ていると言うか、切り口が新鮮と言うか、読んでいてげんなりしなかった。
個人的には装丁がとても好みだ。青空の下紫地の小花柄のワンピースをきた女性がオレンジの布を振り下げている……うーん美しい。

『泣かない』
ハナから「セイジと別れた」という連絡を受けたスギモト。夜中のその電話を聞いてやり、セイジの家の合鍵を返すのを手伝ってやる。そして空いてしまった週末を埋めるために映画に通っていると、ハナがどんなに悲しい映画でも涙を流さないことに気づいた。

本当に悲しい時に、人は心にリミットをかけてしまうのかもしれない。

『十五分』
ユウミとぼくは、一夏をともに過ごした。それは性的な広い航海で、ありとあらゆる場所で二人は絡み合った。

恋愛小説っていうか性愛小説っていうか、あんまり面白くなかった。

『You look good to me』
ネットのチャットルームで知り合ったオスカーとアヒルの子。アヒルの子は事あるごとに「私は醜いから」といい、人間は外見で決まるという。オスカーはそんな彼女のことが徐々に気になり始める。

この話はすごくよかった。決して美人もイケメンも登場しないところが最高だ。

『フリフリ』
立石武彦は、友人カップルから事あるごとに女性を紹介されていた。今は誰とも付き合うつもりがない、と伝えても、クリスマスを一緒にすごす相手がいないのは不憫だと思うのかお見合い攻撃はやまない。その日知り合ったのは江藤潤子という女性だった。

この話もよかったな。「フリフリ」がちょっと唐突だったし微妙だったけれど、設定自体はとてもよかった。

『真珠のコップ』
ヒロトはその日たまたま打ち合わせ先に携帯を忘れた。公衆電話にはデリバリーサービスのチラシが貼ってある。ふと興味を惹かれてそれを剥がし、近くのホテルで電話をいれる。現れたのはリカコというスレンダーな女性だった。

最後の方ほとんどコップが関係ないけど、これはこれで純愛なのかもしれないなあ。

『夢のキャッチャー』
史郎はシナリオライターになりたいという曜子の夢を応援しつつも、どこかで失敗することを望んでいた。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のように、失敗したその時はキャッチャーとして彼女を包み、一緒に暮らそうと思っていたのだった。そんな史郎を尻目に、曜子はめきめきと頭角を現し始める。

円満ハッピーエンドで読んでいて少しも嫌な気持ちにならなかった。

『ローマンホリデイ』
瑞樹はネットの掲示板で「私と『ローマの休日』をしませんか?」という書き込みを見つける。興味を惹かれメールをやりとりするうちに、相手は渋るもののなんとかリアルでデートする運びとなる。

この話だけでいいから是非読んでほしい。短編集全部合わせてもこの話が一番出来がいい。

『ハートレス』
レイコとユタは同棲して仲良く暮らしているカップルだ。しかしレイコは、電車の中で読んでいた女性誌で「三ヶ月以上セックスのないカップルはセックスレス」という記事を読んで衝撃を受ける。その日からレイコはなんとかユタと一発やろうと計画を練り始める。

セックスの話自体があまり好きではないんだけれど、この話はコミカルで結構好きかもしれない。

『線のよろこび』
サツキには恋愛の癖があった。それは「才能フェチ」であることで、しかも相手が成功したら気持ちが冷めて別れてしまうという癖だ。その日サツキは帰り道の駅で、ハッと目を引くイラストを見かける。

こりゃ美人にだけ許される話だなー、と。そうじゃなきゃこんなにうまくはいかないだろう。

『スローグッドバイ』
フミヒロとワカコは、同棲をしていたカップル。二人はそれを解消し、今日「さよならデート」をする。誰かが始めたこの風習は、最後まで円満に関係が終わりましたよ、ということを示すための重要な儀式だった。

この話も好きと言えば好きなんだけれど、嫌いあって別れたわけじゃないカップルっていうのはちょっと不思議な存在だ。



石田初のエッセイ集。
『R25』に掲載されていた原稿用紙4枚分のコラムがメインで、執筆された期間は2004〜2005年だ。ホリエモンがメディアに登場したり、村上ファンドが大変なことになったり、アテネオリンピックが開催されたりの二年。
石田本人の目を通じて、通常のエッセイのように身の回りのことばかりを書くのではなく、経済や時事ネタなどから読者の「あなた」に語りかける作品。



IWGPシリーズは追いかけるのに一冊買っては2年経って……みたいなことを毎回やっているので、今回2016年の9月に出た私からすると新刊を読むのは、ニュースで話題になった現象と照らし合わせて大変面白かった。

『北口スモークタワー』
脱法ハーブを使用して事故を起こした加害者を許せない少女が依頼人。彼女は一緒にふたりきりで暮らしていた祖母が事故によってリハビリの必要な大怪我をしたという。放火しようとしたところをGボーイズが止めた。そうしてマコトにお鉢が回ってきたというわけだ。
Gボーイズの相談役・教授と呼ばれる男と、ドラッグの勉強をしながら北口にそびえる通称「スモークタワー」を見学する。どうやってここを潰すか。

私の知り合いがまだ脱法ハーブが「危険ハーブ」なんてダサい名前になる前に、ビデオ通話越しに吸っていたことがあった。その時の目つきの変わり方、とろんとした喋り方に若干興味を持った。(試したいという話ではない)
その彼も「粗悪品はバッドトリップがサイテーだ」といっていたので、教授の講義は正しいのだろう。

『ギャンブラーズ・ゴールド』
Gボーイズに依頼されて、パチンコ店を荒らしているゴト師を捕まえることになったマコト。キングと並んで打ちたくもないパチンコを打っていると、ホームレスかと見まごう男性が近づいてくる。彼の名はユキヤ。ゲームが友達の青春を送り、パチンコにハマった男だ。彼は「自分ならゴト師を見抜ける」と売り込みにくる。

なんと、メインと思われたゴトについては意外にあっさり終わってしまう。その後に描かれるユキヤについてが本当のメイン。なんといってもマコトの母親は人情に厚く、素晴らしい人間だということを実感。

『西池袋ノマドトラップ』
遊牧民(ノマド)と呼ばれる仕事の仕方をしている人間が集まる、コワーキング・スペース。カフェと間違えてネタを拾いに行ったマコトは、そこでノマドの一人レオンを紹介される。コラムのネタにと取材をするが、彼は何かに怯えているようだった。そして、その店が何者かに襲撃される。

久々にキングの圧倒的なかっこよさを読める。冷徹で切れ味が鋭くて、ぞくりとしてしまう魅力がある。犯人への「しつけ」が最高だ。もちろんこれでも丸くなったので、マコトの意見も聞いているのが良い。

『憎悪のパレード』
池袋の街を「死ね! 帰れ!」と大声で叫びながら行進する人間たち。いわゆるヘイトスピーチだ。彼らはチャイナタウンで中国人に罵声を浴びせ、通りがかる人間は日本人でも攻撃する。「日本から中国人は出て行け、中国人に味方する日本人は日本人じゃない」。Gボーイズとマコトが受けた依頼は、なんとそのヘイトスピーチ団体を守るという任務だった。

昨年また話題になったヘイトスピーチ。近年は他民族排斥派の活動を主にそう呼んでいたけれど、私があの関係のニュースをみて毎回思うのが「沖縄で毎週のようにやってない?」である。今や常識のようになっているが、「米軍は出て行け!」とやっている人間のほとんどが、地元の人間ではない。いつのまにか現れデモで大きな声をあげ、地元にも相手にもダメージを残して去っていく。そういう人間は攻撃したくてたまらない相手がいつでも新しく現れるからだ。
きちんと解決したのにも関わらずモヤモヤしてしまうのは、そういったことを知っている大人になってしまったからなのだろうなあ。
ちなみに今まで登場した名脇役たちが一挙に集う回でもあり、シリーズのファンは大満足するだろう。



医療機器を販売する会社に勤めている俊也は、彼女と別れたばかり。そのことについてインターネット上で相談をすると、ナギという女性が回答してくれた。会うことになった俊也とナギだが、ナギは性に大胆な女性だった。
逢瀬を重ねるたびに、いやらしいことをして俊也をいじめるナギ。だが最後の一線は超えさせてもらえない。挿入だけがないエロティックな関係の中で、俊也はどうしようもなくナギに惹かれていく。

いやー読むのにめちゃくちゃ時間がかかった……。一章おきなんじゃないかっていうぐらい頻発する性描写でおなかいっぱい、むしろくどいぐらいだ。
最後の数ページでナギがセックス依存症になった原因がようやくわかるのだけれど、理由はともかくとして落とし所はこれでよかったのだろうか? という疑問がある。だってなかなか陥落しない女性がそんな理由で落ちるとは思わないじゃないですか。



IWGPシリーズも10冊目の本作で第一シーズンは終わりとなっている。相変わらずマコトは店先であくびをし、タカシはキングとして君臨している。私がこのシリーズを愛してやまない理由は解説で少々触れられているのだが、ミステリ小説、青春小説というジャンルでありながら、犯罪小説でありハードボイルドというジャンルに位置するからだ。
マコトは一人でクリーンに解決するトラブルシューターではないし、キングやGボーイズの手を借りて危険な橋も渡る。それが最善だとわかっていても、潔癖な人間は暴力を好まないし、探偵役がひとり頭脳労働をした結果の解決でなければ受け入れないだろう。が、このシリーズにはかつてそんな潔癖な人間だった私もをハメてしまう魅力があるのだ。
残念ながら石田の描く「若者」は今からみるとステレオタイプで若干古臭い。が、突出した人間を描くのは恋愛小説では必要だが、青春小説やハードボイルドに必要だろうか? むしろ凡人だからこその悩みを描くことができる作者としての楽しみ、自分を当てはめることのできる読者としての喜びがあるのではないだろうか。
今回も一冊に4つの季節を折り込み、綺麗に余韻を残しつつ終わった作品だった。

『データBOXの蜘蛛』
うっかり開いてしまった知らないアドレスからのメールには、キングから紹介され一度トラブルの解決のため会いたいという内容が書かれていた。冬の電気屋同士のバトルを見物して少し疲れたマコトは、とりあえずそのメールに返信して話を聞くことに決める。現れた男の話す内容は、社内機密のデータを入れた携帯を拾ったという人間から脅されているというものだった。

シリーズも10冊となると、Gボーイズの悪い噂も日常のようになっているようだ。明らかに暴力を期待している人間の期待に応えてやる必要などないだろう。内容としては簡単な脅迫犯を取り押さえて二度とやる気を起こさせない、というものなのに、スマートにスムーズな仕事だと思ったらだんだん雲行きが怪しくなってしまう。タカシの「お前のいう楽な仕事はいつも最後でもつれるな」というセリフには同意しかない。

『鬼子母神ランダウン』
タカシに誘われて新品の自転車でサイクリングをすることになったマコトは、鬼子母神の前で女性に声をかけられる。なんのことかさっぱりわからなかったが、タカシがやけに乗り気でその女性の話を聞くことになる。なんでも女性の弟はこの鬼子母神の前で、白い自転車に轢き逃げされて、左足の足首を骨折。大好きなサッカーができなくなったのだという。女性はそのひき逃げ犯を探していた。

いやータカシもこんな顔をすることがあるのか、と、漫画やアニメではなく小説なのにまざまざと脳裏に浮かび上がってしまった。これはマコトでなくても恩を売りたくなるだろう。いたってシンプルな筋で、ひき逃げ犯を探している女性に協力して犯人を張り込みして探すだけなのだが、人間模様が入るとこうも面白くなるか。

『北口アイドル・アンダーグラウンド』
店番をしているマコトの元に、地味な格好の女性が訪ねてくる。声だけはびっくりするぐらい心地よい聞き心地なのに、外見とそぐわない。なんでもその女性は地下アイドルをしていて、最近ストーカーでタチの悪いのがいるらしい。マコトはボディーガードとして女性に付き添うことになる。

2010年の5月に雑誌に掲載されていたこの作品は、おそらく当時としては最先端だったにちがいない。ようやくAKBなどが出て来て「劇場型アイドル」というものが認知されて来た頃。それをネタに一本書けてしまうのが石田のすごいところだ。ちゃんと取材したんだな、という内容もなかなか好感度が高い。

『PRIDE』
締め切りに追われてネタを必死に探しているマコトの元に、美人が現れる。彼女は3年前に自宅へ帰る途中、4人組の男にレイプされたのだという。彼女の話を聞いて、依頼を受けることにしたマコト。そのまま女性と連れ立って、若者のホームレスを支援する施設HOPに取材に向かう。HOPの代表は金髪の嫌味な弁護士で、メディアの評価を非常に気にしている人間だった。女性に「あの施設はちょっとおかしい」と言われて、調べてみると、なんとその施設では生活保護の詐取をしているという。

あーやっぱりこう繋がるのか、と展開はみえているものの、非常に個人的な理由で読むのが若干つらかった。仇を討ってくれる人間がいる、というのはとても人間にとって大事なことなんだな、とも思った。



短編集。いろいろなアンソロジーに書いた作品をまとめたものだ。
個人的には石田の書く「自立した女性」というのがどうも押し付けがましく好きになれないのだが、それは私がまだ自立していないからかもしれない。

『ラブソファに、ひとり』
主人公はマンションの住宅ローンの契約のために書類を書いている。一人で来ていることがなんとなく寂しい。人生における重大な責務を果たしたように安心してインテリアを見にショップに入ると、素敵なソファを見つける。それには「一人がけ、ラブソファ、三人がけ」と種類があった。そのラブソファという単語をみた瞬間猛烈に結婚したくなってしまう。

こんな恋愛の仕方もあるよなー、そうだよなー、と思って読んでいたのだが、解説で褒められている締めの一文が私にとってはダメだった。三十代半ばの女性が全員その手の技を身につけているような書き方があかん。

『真夜中の一秒後』
旅行先の台湾で、主人公は五年前「自分はいつ誰と結婚するのか」という占いをした。すると「五年後の十一月一日最初に出会った人と」と言われる。そうしてワクワクしながらその時を待っていた。が、実際にその日になってしまうと、会社の飲み会でその時間は訪れようとしていた。

占いにお金を使う人は女性には結構多い。旅行先での占い程度は思い出のお土産程度で可愛いものだと思う。じゃないと女性誌に毎回星座占いが載っている理由がなくなってしまうから。

『フィンガーボウル』
主人公は夫と二人暮らし。でもその日は年下の男の子とフレンチでディナーを楽しんでいた。彼は鳩を、自分は蝦夷鹿を頼む。男の子の前に運ばれて来たフィンガーボウルの使い方を教えてやる。

これで夫婦生活が破綻しないんだからいい夫だなあ、以上の感想が出てこない。いや、ある種の変態なのか?

『夢の香り』
主人公は若りし頃に見た夢の「運命の相手」をどこかでずっと探していた。その男には顔がなく、頭を肩に乗せると香りが漂う。それはその後男を選ぶ基準にもなった。親友二人とコーヒーを飲みながら、もう一人の友人が現れるのを待っていると……。

石田は異性のにおいを書くのが好きだなあ。この主人公はきちんと分別がついているのが読んでいて楽しかった。

『ハート・オブ・ゴールド』
勤続十年のご褒美として休暇をもらった主人公は、なんとなく沖縄に行き、その日の宿のゲストハウスに向かう。ゲストハウスではハウスネームというものを客が持ち、本名では呼び合わない。一人一品料理を持ち寄って食べる夕食は楽しかった。が、そのゲストハウスは実は大層な危機に面しているという。

心が金持ちだったら、実際の生活が貧乏でも構わない。それは90年代から信じられている迷信かもしれない。が、実際にそれを信じて実行してきた人間も多いし、あるいはその逆でお金さえあれば幸せになれると信じている人間もいる。

『23時のブックストア』
ベテラン書店員の主人公は、年下のアルバイトと深夜のブックストアでレジに立っている。その男の子は「この後時間ありますか?」と聞くのだった。

ショートショート。こういう恋の始まりは素敵かもしれないけど、続かないだろうなと思ってしまう自分の思考回路に「もうちょっとロマンチックになれんのか!」と喝を入れたい気分になる。

『リアルラブ?』
ヤスとカナコはセックスも込みのお友達。ヤスは常連客のマダムが好きで、カナコは店のチーフが好き。お互い共同戦線を張って情報を交換したりしているが、ある日それが思いもよらぬ方向に転がり始める。

セックス込みのお友達って、結構自制心がないと続かない気がする。お互い好きな相手がいたからこれはうまくいったのだな。

『ドラゴン&フラワー』
主人公は高校を卒業するときに、20歳までに処女を捨てると決意していた。大学では意識して女の子らしい格好をし、髪も縦ロールにちかいパーマをあてている。が、ちっとも「この人だ!」と思える人に出会えない。自分だけを見てくれて、自分だけを愛してくれれば、白馬に乗ったりしてなくてもいいのに……。でも、なぜか気になる人はサークルにいるのだった。

モテ期って私には全然なかったので(多分虚数だったのだと思う、これからは来たとしても大変そうだから来なくていい)同時に複数の男性から告白されるというシチュエーションはいまいちピンと来なかったが、誰だって二回目よりは1回目の方がインパクトが強いのではないだろうか。これは必然の関係だと思うなあ。

『魔法のボタン』
失恋したての主人公は、幼馴染と下北沢のカフェで待ち合わせる。寝坊してバタバタとやってきたその女性は、すっぴんにジャージにジーンズという主人公を男と思っていないような格好で、いきなりビールを飲み始める。その変わってなさがなんだか嬉しくて、主人公と幼馴染は来週のデートの約束をする。

こういう関係は素直に憧れる。楽しく飲んで食べて、気がついたら……それがお互い異性とは思っていなかった相手っていうのがいいじゃないか。「魔法のボタン」もしっかり機能していて楽しい。



智香は29歳のキャリアウーマン。スタイル抜群十年来の親友・彩野、年上だけれど抜群に美人な沙都子、肉食系ロリータ・結有と4人でシェアハウスをしている。
合コンに繰り出すもののイマイチ本気になれる相手も見つからず、友人たちは次々と自分の幸せを見つけて行く。沙都子に付き合ってお見合いパーティに出て見たりするものの、なんだか自分になじまない。果たして運命の王子様には出会えるのか?

婚活ねえ……私もそろそろ具体的に考えるべきなのだろうか、と思いながら読んだのだ。いやあ、私の持ってる婚活のイメージとは全然違う。合コンぐらいまでだったら婚活の範疇に入るとは思うのだが、普通に恋愛を楽しもうとしているところがもうイメージが違った。欲張りすぎないか? この主人公。その指摘は本文でも人を変え何度もされている。それでも相手が見つかるところは小説だな、という感じ。



川瀬繁、橋本直明、服部要は毎晩ガード下の定食屋「福屋」に集まる。お揃いのジャンパーを着て夜の街に繰り出すのだ。その「福屋」に、もう一週間も通いつめて自分たちと友達になりたいという男がいた。岡田由紀夫。障害者支援施設「のりすの家」から毎晩許可をもらって外出していると言う。そのしつこさにうんざりしている面々は、「友達になりたいならアメ横の放置自転車を全部片付けろ」と難問を突きつける。
そしてしばらくして由紀夫を見かけると、彼は老人と共に一生懸命自転車を整理していた。老人は彼らに缶コーヒーをおごってくれ、「四年前の事件で息子をなくした」と語る。アメ横の乱雑とした、暴力を容認してしまいそうな雰囲気が気になって自転車を整理しているのだという。4人はそれを聞いて、上野の「ガーディアン」になることを決意する。
お揃いのベレー帽、ジャンパー。色は真っ青。繁はアポロ、直明はサモハン、要はヤクショ、そして由紀夫は天才とコードネームをつけ、地道に夜の街を守ることになる。そこには昼と夜の顔が違う女や、ゴミ屋敷に住んでいる老女、果てはヤクザに頼まれごとをしたり窃盗団を捕まえて欲しいと依頼が来たり……。彼らはガーディアンとして上野の街をよくできるのか?

読みながら寝ようと思っていたらうっかり面白すぎて眠れなくなってしまった。一章ずつあらすじと感想を書いても良かったのだが、形式としては短編連作になっているのでまとめて紹介した。
石田は映像向けの作品を書くことがとにかくうまい。IWGPの時も下北サンデーズの時も思ったのだが、人物の描写と街の描写が案外細かく、きちんと脳内で動いてくれるのだ。



このエッセイ集を読んだ時に、妙に心に残った言葉がある。

「コップの中の嵐」。

世の中の様々な出来事はしょせん小さな場所で起こっている自分に関係のないことにすぎない、という意味で使っていると思う。そこで私は今まで石田作品を読んでいて感じていた違和感の正体にはたと気づいた。
そうか、石田にとってはすべての出来事が「コップの中の嵐」に過ぎないのだな、と。
取りざたされる政治問題も、環境問題も、マスコミの姿勢も、すべてコップの中の嵐。だから政治について語れるし、環境について考えたと言えるし、マスコミの取材を受けられる。
こうして世の中を自分と切り離して考えているから、今の30代までの世代に受けるのではないか。なぜなら私たちもまた問題とは乖離した場所で生きている世代だからだ。
綺麗なことを言えば世の中は生きやすくなるけれど、それだけではエンターテイメント性が足りない。だから人は突飛なことを言う。石田の理論は「乖離した理論」だとしか受け取れないのだ。それが実行できるかどうかは置いておいて。
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