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私の読んだバージョンがなかったのでこっちを貼る。
医療ミステリを書くのが得意な帚木蓬生の、自身のホームとも言える精神医療に関した意欲作だ。

主人公の水野は、フランス・マルセイユにある病院で精神科の内勤医をしている。
そこには麻薬医療に関する研究を進める偉大な博士がおり、その下で働く人々も優秀だ。
シモーヌという女性と日々を過ごしながら、水野の日常は満たされていた。
その歯車が狂い始めたのは、法王暗殺未遂の夜、首なし死体が解剖室から発見されてだった。
シモーヌの生まれ故郷で、水野は先日追い出した麻薬中毒の患者を見つける。
それをきっかけに、麻薬と精神医療という二つの「受難」が、結びついていくことになる。

これ以外の展開のしようがない、というほどの綺麗な終わらせ方だった。
出てくる人間全てが魅力的に書かれており、水野の剣道仲間や昔の教授が彼を気遣うシーンなどは、美しすぎてちょっと怖いぐらいだ。
今は当時より研究も進み、病名も変更され(例:分裂病→統合失調症)、人権は守られているかのように見える。が、どこかでもしかしたらこんな実験が進んでいるのかも、と思わされるだけの緻密な描写は凄みがあった。
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妖怪の中でもつくもがみはなんだかひょうきんで親しみやすいイメージがある。
それは「人に愛されて使用され続けた結果妖怪になる」というところからきているのか、物が喋り出すというところからきているのかはよくわからない。それでもなんとなくだが愛らしいイメージがあるのだ。
同じつくもがみでも、髪の毛が伸びる人形なんかはちょっと怖い。
しかし本書に登場するつくもがみは、お喋り好きで人のために「働いてやっている」非常にえらい方々なのだ。

舞台は江戸深川。
鍋、釜、ふんどしなどなどなんでも貸し出す損料屋という商いをしている、清次にお紅という二人が主人公だ。
清次はお紅に家族以上の感情を持っているが(実際の姉弟ではないので結婚はできる)、姉のお紅の方は自分をどう思っているかがわからない。さらに、昔いい雰囲気になった男の持っていた香炉、「蘇芳」のことをいつも気にかけて行方を探している。
そんな二人の人間関係を軸に、つくもがみが大活躍するのだ。
大活躍といっても切った張ったのバトルではなく、おとなしく貸し出されてその先で噂話を仕入れ、店の奥で話すだけ。でもそれが最高に面白い。
その話を元に推理をたてて清次は様々な事件を解決し、つくもがみは「私たちのおかげだ」と悦にいる。素晴らしい共存関係ができているのである。

さくさく読めて、時代物だというのに大仰なところのないこの本は、ぜひ子供にも読ませたい。



姫野文学を読んだのは三冊目だ。
一冊目は直木賞候補にもなった「ツ、イ、ラ、ク」だった。長編だったが先が気になって貪るように読んだ。二冊目は短編集の「よるねこ」、見事にまとまった本だった。
そして今回だ。
いや、もうなんといっていいか…文章が巧すぎる。
「上手」なのではなく「巧み」なのである。

表題作は43歳既婚者男性が主人公。算術ぐらいしか取り柄がないと自覚もあるのにとにかく女性にモテる。なんだなんだこれは嫌味な小説か? と思いながら読み進めると、第2章では同じ快速特急に乗り合わせる女性の視点になる。
この切り替えが巧い。既婚なのに女性にモテまくって関係を結んじゃう男性と、性的なことに全く興味がなくて結婚なんて外国の出来事のように自分の意識から切り離して生きている手に職を持った30歳独身女性。二人の視点がいい具合に交差して、この出会いをなにか「意味ありげ」なものに昇華しようとしている気がするのである。
結末は本書を読んでもらうこととして、日常から外れたい男と日常を送ることを意識しない女のプラトニックな愛をこれでもか、と書き出しているのは素晴らしい。
他に二編週力されているのだが、「お午後のお紅茶」はバイセクシャルの美しいものに敏感な青年がどうしても好きになれない店の話で、たったそれだけの話をここまで面白くかけるのはすごい。最後の「魚のスープ」も、男女の性の匂いのしない友情というもの、結婚して三年経ってちょっと冒険したい男の下心、というものを実に分かりやすく書いている。

ついつい姫野作品を集めたくなってしまった一冊である。




ヘッセの抑圧され消費された少年時代を写し取った小説。
主人公ハンス・ギーベンラートは幼い頃から田舎町には似合わないほど聡明で、勉学に打ち込み、その出世は父親だけでなく町中のあらゆる大人が望むものであった。
彼は友人も作らず毎日勉学に追われ、飼っていたうさぎを手放し、趣味の釣りを手放し、神学校へ次席で入学する。
努めて模範生であろうとした彼は、逆に破天荒な詩人ともいうべき同室生ヘルマン・ハイルナーと親友になる。一度寝室でかわしたキスに恋人のように友情を求めるハンスだったが、ハイルナーが問題を起こし謹慎になった際、彼の味方につくことができず、友情にヒビが入ってしまう。
しかしとあることをきっかけに今度こそ「親友」と呼べる仲になるが、ハイルナーが「ぼくには故郷に恋人がいる」と明かしたことをきっかけに、ハンスの嫉妬は増し、ハイルナーはあれほど仲の良かったハンスを置いて脱走してしまう。
ハンスは神経症を患い、学校を辞さなければならなかった。
そうして地元に戻ってきて、自殺まで考えるが、恋のときめきに自分の将来を考え「機械工になる」と決める。
が、恋した少女はそう決めた途端自分の故郷へ帰ってしまっていた。ハンスはからかわれたのだ。
それでも労働の喜びを覚え、昔の友人の初任給で楽しくビールを飲む。
そして、そのまま川に転落し帰らぬ人となってしまう。

ヘッセの過去を知ると、どちらかというと彼自身はハイルナーに近かったのではないかと思われる。
が、ハンスも間違いなく彼自身の中にいた「ヘッセ」なのであり、その人生を狂わせたのは一体誰なのか、という憤りと、答えなどないという遣る瀬無さが最後に読み取れる。

人は誰しも少年性、少女性をうちに抱いたまま成長し、その部分は誰にも侵すことができない。
それをそっと包み込んで肯定してあげることが、人間として大きくなるための一歩なのかもしれない。




友人から「少年ハリウッド面白いよ」と言われてアニメは全部みたものの、小説までは手がなかなか出なかった。
しかしとあるきっかけで入手したので、ぺらっとめくってみたら…面白い!!!
知らなかったのだけれど脚本をかいている樋口いくよ先生は、「僕は妹に恋をする」なんかのノベライズとか「結婚できない男」の本書きとかをしていた人だったらしい。

少年ハリウッドは、10代の男性アイドルグループ。
現在活動している「新生 少年ハリウッド」ではなく、小説では「初代 少年ハリウッド」にスポットが当てられる。
メンバーはとても個性的。小説に出てくるのは現在認知されている初代以外の、すでに脱退してしまったメンバーも含まれるので読んでいてどんな展開になるのか目が離せない。
リーダーのランがスカウトされたところから話は始まる。
コウさんの暫定の名前がやたら可愛いところや、大地さんのヤンキー全開なネーミングセンスとか、もう若さが溢れている。夢いっぱいのキラキラ満載の内容。

だが、それは「32歳なのに17歳と間違われてスカウトされちゃったゴッド」の章に入って、やや陰りを帯びてくる。
ゴッドが考えるアイドルや世間というものは、かなり一般の大人の考えるものに近い。アイドル志望だった、という過去を除けばゴッドは紛れもなく一般人だ。自由はないけどお金は浮かせたいから、友人とルームシェアをする。童顔でスーツが似合わないからスーツを着ない会社で働く。ちょいちょい「不安定さ」を見せながらも、「まあ、一般はこうだよね」という生活をしているゴッドが、憧れてやまなかったアイドルの世界に足を踏み入れてから、「若さとはこういうことか」という納得に読者も同意してしまう。
ゴッドは少年ハリウッドにとって神聖な木、揺るがない存在でありながらも、実はあくまでお客さんである「オレンジ」に一番近い存在なのだ。

夢を一度でもみた人間が、夢を諦めた後、その夢を一度も思い出さないなんてことはないだろう。
きっと節々で「このときこうしていれば」「あのときああだった」などと考えてしまうはずだ。
あっけなくリュウの章で小説は終わってしまうのだが、気が付いたら朝になっているように、夢は突然終わるものなのだ。
そしてその夢をまたみたい、と思うのはなんら不自然ではない。
ゴッドは、きっと自分たちが追いかけた夢、自分がみていた夢、叶わなかったなにかを新生に託して、もう一度少年ハリウッドを復活させたのだな。

とにかく面白かったです。




文学、というものだなあとしみじみ感じた。特に問題をはっきりさせないで、延々とつづく語り口。そしてディテールがとても細かい。読むときは一気に読まなければ、前の話を思い出せないかもしれない。それが悪いとかではなく。
片田舎の葡萄農家に生まれた乃里子は、小太りで冴えない女子中学生だった。従姉妹の葉子が進む高校を蹴って、偏差値の高い高校へ入学。そこでの恋愛、あこがれ、友人たちとの会話、日常の風景。どれもが乃里子の中である種一定の温度を持って存在していた。それはいつまでも続くことなく、彼女は青春を過ごしていく。終わりに何が待っているか想像もしないでーー。
瑞々しい感情を存分に書き上げた作品。ちょっと古いが、読んでみて甘酸っぱい気持ちになれるだろう。




どこか薄寒いホラー幻想小説集。表題作の読み辛さ以外は特に気にならず、すいすい読めた。
「女優」がありがちなんだけれども上手く描かれていて絶品である。




 中世ヨーロッパを舞台にした四つの殺人をめぐる短編小説集。どの作品にも藤本らしいちょっとしたひねりが加えられており、読んでいて気持ちよく世界に浸れる。藤本は長編の方が面白いと思っていたが、いやはやなかなか短編もよくできているではないか。盛り上げ方とどんでん返しの書き方が非常に上手く、楽しく読めるミステリになっている。




 勉強用に読んだ。なかなか面白い小咄が多く、カレンダー形式で一日一話ずつ話が進むのも楽しかった。文庫を買おうかなあ。




 人は誰しも夢のような恋愛にあこがれ、女ならば愛されることに命をかける人すらいる。数々の浮き名を流したジョゼフィーヌが波瀾万丈の人生を送ってきた方法を書いた一冊。
 個人的にはこれよりも親友であるテレジアを書いた「令嬢テレジアと華麗なる愛人たち」の方が好みではあるのだが、「おいしい人生」というタイトルに惹かれてこちらも読んでみた。なんとまあ好対照なふたりだろう。
 テレジアが自分の人生を自分で舵取りしてきたのに対して、ジョゼフィーヌは運命に身を任せる。その大きな違いの他に、思想というものがあるかないかで人生はだいぶ違うのだということがよくわかる。楽しい読書だった。
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